事業承継税制の基礎知識|中小企業の事業承継で使える税金対策
中小企業の事業承継(後継者への経営引き継ぎ)にかかる相続税・贈与税の特例を解説。非上場株式の評価・事業承継税制の特例・事前の計画立案まで、スムーズな事業承継のための税務ガイドです。
✓この記事でわかること
中小企業の事業承継(後継者への経営引き継ぎ)にかかる相続税・贈与税の特例を解説。非上場株式の評価・事業承継税制の特例・事前の計画立案まで、スムーズな事業承継のための税務ガイドです。
「会社をどう引き継ぐか」は経営者にとっての最大の課題
中小企業の経営者の方にとって、「自分が作ってきた会社を誰に・どうやって引き継ぐか」は人生最大の意思決定の一つです。
カフェでも「後継者はいるんだけど、税金がすごくかかるって聞いて…」「どこから手を付けていいか分からない」という声をよくいただきます。
実際、後継者への株式の贈与・相続で高額な税金が発生し、事業承継が滞るというケースは珍しくありません。でも、適切な制度を活用することで、その税負担を大幅に軽減できます。
この記事では、事業承継にかかる税金の仕組みと、「事業承継税制」を中心とした税金対策をわかりやすく解説します。
事業承継における税金の課題
非上場株式の評価と高額な税負担
中小企業の経営者が保有する「非上場株式(自社の株)」は、会社を後継者に引き継ぐ際に、相続財産または贈与財産として評価されます。
非上場株式の評価方法(相続税評価):
| 評価方法 | 対象 | 特徴 |
|---|---|---|
| 類似業種比準価額方式 | 大会社 | 同業種の上場会社と比較して評価 |
| 純資産価額方式 | 小会社 | 会社の純資産をもとに評価 |
| 折衷方式 | 中会社 | 上記2つの組み合わせ |
問題点:利益が出ている会社ほど、株式評価額が高くなる
例えば、年間利益5,000万円・純資産3億円の会社なら、株式評価額が3〜5億円になることもあります。経営者が亡くなった場合、後継者にはこの株式評価額に対して相続税(最大55%)がかかります。
しかも非上場株式は「売って税金を払う」わけにいきません。「株は受け継いだけど、税金を払うお金がない」という事態になりかねないのです。
事業承継税制とは何か
「事業承継税制」とは、中小企業の非上場株式を後継者に贈与・相続する際の贈与税・相続税の納付を猶予(または免除)する制度です。
2つの措置:
| 措置 | 内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| 一般措置 | 相続税・贈与税の80%を猶予 | 申請期限なし・後継者は1人 |
| 特例措置 | 相続税・贈与税の100%を猶予 | 2027年12月31日まで・後継者は最大3人 |
「猶予」とは「支払いを先送りにする」ことですが、後継者が経営を継続している限り実質的に免除(ゼロ)になります。
特例事業承継税制の内容(重要)
特例措置の概要
猶予割合: 相続税・贈与税の**100%**を猶予 対象株式: 議決権株式の全部(上限なし) 後継者: 最大3人まで
これは実質的に「株式の承継に関する税金がゼロになる」に近い制度です。
適用要件
先代経営者(渡す側)の要件:
- 会社の代表者だったこと(過去に代表者であればOK)
- 贈与時は代表者を退任していること
- 後継者以外の者への遺贈・贈与をしていないこと
後継者(受け取る側)の要件:
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 年齢 | 20歳以上 |
| 役員就任 | 贈与前に役員に就任し、3年以上経過していること |
| 代表者就任 | 贈与後・相続開始後に代表者に就任すること |
| 持株比率 | 承継後に最大持株者(50%超保有)になること |
会社の要件:
- 中小企業基本法上の中小企業であること
- 上場会社・風俗営業等は除外
- 資産管理会社(株式・不動産等が50%超)は原則除外
申請手続きの流れ
- 特例承継計画を都道府県知事に提出(都道府県の窓口で手続き)
- 都道府県知事の認定申請(贈与・相続後5ヶ月以内)
- 税務署への申告(贈与・相続税の申告と同時に猶予の申請)
- 毎年の継続届出書の提出(5年間は毎年、その後は3年ごと)
一般措置と特例措置の比較
| 比較項目 | 一般措置 | 特例措置 |
|---|---|---|
| 猶予割合 | 80% | 100% |
| 対象後継者数 | 1人 | 最大3人 |
| 対象株式数 | 発行済議決権株式の2/3まで | 全株式(上限なし) |
| 申請期限 | なし | 2027年12月31日まで |
| 特例承継計画 | 不要 | 必要 |
| 雇用維持要件 | 原則5年間は80%維持 | 5年平均80%維持(弾力化) |
特例措置は2027年12月31日が期限のため、早急な対応が必要です。
事業承継前に行うべき税金対策
事業承継税制を使わない場合や、使うまでの間にできる対策もあります。
対策1:株式評価額を下げる
事業承継前に株式評価額を引き下げることで、税負担を軽減できます。
評価額を下げる主な方法:
| 方法 | 内容 | 効果 |
|---|---|---|
| 自社株買い | 会社が自己株式を買い取り、株式数を減らす | 1株あたりの評価額に影響 |
| 役員退職金の支払い | 退職金を会社から支払うことで純資産を減らす | 評価額の直接的な引き下げ |
| 含み損のある資産の処分 | 帳簿価額より価値が下がった資産を処分 | 純資産価額を下げる |
| 配当の調整 | 高配当を抑制することで類似業種比準価額を下げる | 評価額の引き下げ |
これらの対策には専門的な税務判断が必要です。必ず税理士に相談してから実施してください。
対策2:生前贈与の計画的活用
年間110万円の「暦年贈与」を活用して、毎年少しずつ株式を後継者に移転する方法です。
| 年数 | 移転できる株式の価値 |
|---|---|
| 5年間 | 年110万円×5年=550万円(贈与税なし) |
| 10年間 | 年110万円×10年=1,100万円(贈与税なし) |
少額ずつですが、長期的に計画することで税負担なく株式を移転できます。
注意:2024年より相続時精算課税制度が改正されました。最新の制度をご確認ください。
対策3:持株会の活用
従業員持株会に株式を売却することで、オーナーの持株比率を下げ、評価額を分散させる方法があります。従業員のモチベーション向上にもつながります。
事業承継のタイムライン(理想的な流れ)
事業承継は「急に始める」ものではなく、5〜10年前から計画的に進めることが重要です。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 5〜10年前 | 後継者の選定・育成開始・税理士への現状相談 |
| 3〜5年前 | 後継者を役員に就任させる・株式評価額の確認と対策 |
| 2〜3年前 | 特例承継計画の申請・生前贈与の開始 |
| 1〜2年前 | 事業承継のスケジュール確定・従業員・取引先への準備 |
| 承継時 | 贈与または相続の実施・都道府県・税務署への申告 |
| 承継後5年間 | 毎年の継続届出書の提出・雇用維持要件の確認 |
専門家への相談が必須な理由
事業承継税制の活用には、税法・会社法・組織再編など複数の分野の専門知識が必要です。
相談すべき専門家:
| 専門家 | 相談する内容 |
|---|---|
| 税理士(事業承継専門) | 株式評価・税務申告・節税対策全般 |
| 中小企業診断士 | 事業計画・後継者育成 |
| 司法書士 | 定款変更・登記手続き |
| 事業承継士 | 承継全般のコーディネート |
中小企業基盤整備機構(中小機構) や 商工会議所 でも、事業承継に関する無料相談を受け付けています。
まとめ
事業承継税制のポイントを5つにまとめます。
- 非上場株式の評価額は業績が良いほど高くなり、相続税負担が重くなる
- 事業承継税制の特例措置を使えば、株式の相続税・贈与税が実質ゼロになる
- 特例措置の適用には「特例承継計画」の提出が必要で、2027年末が活用期限
- 後継者は役員就任から3年以上・贈与後に代表者就任の要件を確認する
- 事業承継は最低でも5年前から計画し、税理士・専門家に早めに相談する
「まだ先のこと」と思わずに、今すぐ税理士や事業承継の専門家に相談することをおすすめします。
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暮らしとお金のカフェ 編集部
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